ローファイ
フラスコ飯店というサイトでローファイについての紹介記事を書いた。有償で何かを書くのははじめて。
好きな文章を書く後輩が参加しているサイトであり、その後輩の提案で自分に声がかかったのが嬉しく二つ返事で参加を決めた。
フラスコ飯店には一つのテーマを設定してそのテーマに沿った作品を紹介する「定食」という枠組みがあり、そこで一筆願えないかということだった。
主催の河合さんに「どんなテーマで書きましょう?」と相談したところ「音楽ジャンルをテーマに設定して、それを映画や小説などに異化して解説する様な記事はどうか」と提案を受け、なるほどやってみようと取り組んでみた次第。
最初は「例えばシューゲイザーなんかはどうですか」と提案されたがそれだけは絶対に嫌だったのでこちらで「ローファイでいきたいです!」と返した。
書き始めてみるとそもそも自分が歴史やジャンルを意識したり体系立てて音楽を聴いたことがないと気づく。自分でテーマを設定しておきながら「ローファイとは......?」と頭を抱えてしまった。ある程度イメージが共有されている言葉だと思って選んだわけだが調べていくと全くそんなことはないと分かった。英語版wikipediaを見ていたら同じ記事内でも矛盾しそうなことが書いてあるし気になる文の引用元を辿ったらよくわからん原理主義者の断定的なポストもあるし......。
常に頭の中にちらつくのは何かと難癖をつけようとする偏屈なおたくの存在であり、それは自分こそが偏屈なおたくであるからに他ならない。おたくマインドだけは一丁前に持ち合わせている癖に合わせてくっついているべき知識が全くと言っていいほど無い。
ちゃんとした文章を書こうとする度に自分がフェイク野郎であるということを思い知らされるな
— たいなか (@etarlibyyap) 2019年11月10日
ウンウン唸りながら関連作品及びそれらの批評や解説にあたり、自分の中の「ローファイ感」というものの定義をなるだけ確かにしようとする。→ますます分からなくなる→なんとなく「こうかな.......?」というものが出てくる。の繰り返しでどうにかそれらしいものを書こうとした結果が今回の記事であり、今書いているこの文章はそれに対する言い訳の様なものだ。記事の最後に載せた参照元サイトはどれもこの面倒な言葉に真摯に向き合って書かれたんだろうなあと思える素敵な文ばかりなので是非読んでみてほしい。特におかざきよしともさんのポストはフワッとしがちなイメージが完全に言語化されていて(これがあれば私の文とか要らなくない......?)と思ってしまうくらいだ。公開された時も読んだし私が反射的に「ローファイにしましょう」と提案したのは頭の片隅にそのポストがあったからだと思う......。
それと英語版wikiの中で何度も引用されているAdam Harper氏の論文は400ページにも及ぶ大作で(webで読める)(この人がwiki編集したのでは......)さすがに全部は読んでいないがところどころかいつまんで読むだけでも並々ならぬ気迫が感じられた。私の記事にもどうかそれらの0.0000001%ぐらいの真摯さが含まれていると信じたい......。できるだけ真摯に向き合いました。
(たとえば個人的にはBeckをローファイと呼びたくない(理由はなんとなく)のだが当時のNew York TimesなりLo-Fi Top 10なりにその筆頭として名前が挙がっているそうなので背景等を説明する上で外してはならないと思い名前を入れたりした)
増田聡氏の
ジャンルとは音楽を区分する普遍的な分類法ではなく、たとえば雑誌やクラブ、レコード会社などの制度が便宜的に音楽を区分することを繰り返していくうちに、あたかも実体的なもののように生じてくる分類観念である
という言葉とともに読んでもらえればと思います。
www.msz.co.jp
いい記事になったかどうかは置いておくとしてもやってみることで広がった世界はあったのでとりあえずやってよかったとは思う。書く内容に悩んでいる時に見に行ったHomecomingsがダニエルジョンストンのカバーを演奏していたりostoandell復活のニュースもあったりして、それでとりあえずやりきろうと思えた。それにしても私の文章はカタいな......。河合さんの編集がなかったら読めたもんではなかったと思う。ちささこさんのイラストも素敵。
Pavement「Cut Your Hair」 pic.twitter.com/52b1BwyqFo
— 夏bot@『Blue Peter』好評発売中 (@chelseaguitar) 2019年11月30日
こういうのもあったね
概念をインフレさせるのはよくないと思う。語源論法とかを使って、その文章のなかだけで、様々なことがらの見逃されていた共通性をさぐる、とかは、有意義なんだろうと思うが、ひとはつい概念をざつに使ってしまいがちなので、とくに研究者は、概念を示すことばはよほど注意して使うべきだとおもう。
— ナンバユウキ (@deinotaton) 2019年11月8日
こういう言葉も常に頭の中にあって、その中で極力注意して誠実にやろうとしました。まあ私は研究者ではないですが......(こういう逃げもよくないな)
できれば「音楽ジャンルを異化して解説する」のは今回きりにして次回以降はもう少しやりやすいテーマに設定したい。好きなものについて語るのは楽しいのでこういう場がもらえるのはありがたいし嬉しいです。
記事内では紹介できなかった作品をいくつか。
『K. AND HIS BIKE』the band apart(2003)
国内の現行のバンドでローファイからの影響を受けている、と言えばHiGE、Homecomings、シャムキャッツ、Helsinki Lambda Clubあたりの名前が挙がるだろうか。京都でバンドをやっている人達の間ではpavementをはじめローファイ音楽及びそれに附するカルチャーについての知識が広く共有されているように感じる。kailios、ベランダ、ラグチューシャック、Hi, How are you?、she said、SAGOSAID......The Buttersは神戸のバンドだけど録音は京都だったはず。みんな好きだな......
ベランダたけおさんの所属していたサークルではpavementのコピバンが非常に盛り上がるらしい。Cut Your Hairで大合唱が起こるそうだ。私の知る大学の軽音サークルというものは海外の音楽をコピーしても演者の自己満足で終わってしまう(それはそれで良い、コピバンとはそういうものなので)のがデフォルトだったのでその話を聞いた時はものすごく羨ましくなったのを覚えている。
「初心者っぽい感じで」とオーダーされたので、「ハイハットがキックのリズムにどうしてもつられちゃう人」というキャラ設定で叩いたらすこぶる評判の良かった今日のラブサマちゃんリハ。
— 吉澤響(セカイイチ) (@yszwk_dr) 2019年11月22日
ローファイスピリットだ
the pillowsやスピッツもキャリアの中でローファイに傾倒した作品がいくつかある。「ローファイ」という言葉をはじめて聞いたのは私に色々な音楽を教えてくれた高校の同期のSとのSkypeだったのを思い出した。その時彼は初期のスピッツを例に出して説明してくれたように思う。
the band apartがローファイバンドとして語られることは少ないが(私も"ローファイバンド"とは呼びたくない)、この作品なんかは同時代の国内の他のバンドの作品と比べると音圧や解像度の点で明らかにローファイで、アートワークや活動の姿勢についてもpavementなりその辺のカルチャーなりに影響を受けていることが度々語られている。
私はバンアパの歌詞が好きだ。イエナガくんともよくその話をする。経験してもない架空の記憶を呼び起こされてエモ泣きしてまう。 このアルバムの表題曲をRUSH BALLで演奏している動画を見ようと思ったら消されてしまっていたようで寂しくなった。
『Kill Your Memory』Heaven For Real(2016)
カナダはハリファックスのインディバンド。来日公演時に昔所属していたバンドで共演した。とってもpavement。めちゃくちゃ良いので聴いてほしい。音源からは伝わらないかもしれないけどライブではドラムがDeerhoofのグレッグばりのフィジカルで圧倒されたのを覚えている。海外の人のルーズに演奏しているような感じであんなに上手いのずるい。また来日したら見に行きたいな......。
『Passing Busses』Banana Collection(2019)
◆レーベルレコメンド
Banana Collection初の正式リリース音源となる本作はWeezer/SPORT/透明雑誌/Superfriends……なににもなれずに足掻いた勢いで突っ走る。君を思って愛に泣く、喜びと悲しみのローファイエモーショナルインディーポップ。
前田君 a.k.a. みんな、恋せえよ〜!のこのレコメンド文めちゃいいよね。
今年出た作品の中で一番ローファイなのでは......
バイブス全振り。ボーカルのピッチ補正とかもほとんどしてなさそう。こないだ共演したけどライブの方が上手いんちゃうかと思った。僕はウメザワくんのやっていきマインドにだいぶ感化されたところがあるのでまたなんか一緒にやれたらええねえ。
おわりに、私も音楽や創作物の定量化・言語化し得ない部分に惹かれている節がある。
一方でそれをできる限り文章で説明してみようという試みはとても生産的で面白い行為である、とも思う。何よりそういった文章によって世界が広がるという経験を数え切れないほどにしてきた。ので自分の文章の良し悪しはともかく読んだ人が紹介した作品や参考に示したサイト・著作にあたってくれたらいいなあ〜〜という気持ちで書きました。繰り返しになるがこういう機会がもらえるのは本当にありがたいです。またなんかあったら是非やらせてください。
ライブの予定
12/21(土) colormal サポート
東京 代々木Zher the ZOO
開場18:00/開演19:00
前売¥3,000+1drink(¥500)
[出演]
colormal
笹川真生
12/27(金) colormal サポート
Zukai 3rd mini album Release Party
~暇じゃない~
大阪 心斎橋Pangea
開場18:30/開演19:00
前売¥2,300+1drink(¥600)
[出演]
ズカイ
Laura day Romance
colormal
YAJICO GIRL
2/22(土) colormal サポート
端 vol.4
東京 大塚meets
開場18:00/開演18:45
前売¥2000+1drink(¥600)
[出演]
colormal
corner of kanto
kumagusu